一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し – 平成30年度税制改正 –
一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し – 平成30年度税制改正 –
一般社団法人は平成18年の公益法人制度改革により、公益社団法人とともに設けられた非営利法人です。「非営利」とは、株式会社のように利益配当を行わないことを意味し、営利法人である株式会社などと同じく収益事業を行うこともできます。
非営利を徹底し、税務上の「非営利型法人」となれば、収益事業(34業種)以外から生じた所得に対して法人税の課税はありません。この場合、一般財団法人が受けた贈与すなわち寄附金収入には法人税が課税されません(注)。
(注)贈与した者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、受け取った側の一般社団法人を個人とみなして贈与税又は相続税が課税される可能性があります。
また、税務上の「非営利型法人」には、持分の定めがありませんので、一般社団法人の財産は相続財産とはならず、相続税が課税されません。
一般社団法人の設立は簡単で、諸官庁の審査や報告義務もなく、自由度が高いのが特徴で、上記のような税務上のメリットがあることから、様々なスキームでの利用が可能です。
一般社団法人の税務上の区分
一般社団法人
<税務上の区分>
非営利型法人
非営利徹底法人
共益的活動法人
営利型法人
非営利徹底法人の要件
次のすべての要件に該当する一般社団法人
- (イ)剰余金の分配を行わない旨が定款において定められていること
- (ロ)解散時の残余財産を国、地方公共団体、公益社団法人、公益財団法人等に帰属させる旨が定款において定められていること
- (ハ)理事及び親族等である理事合計数が理事の総数の3分の1以下であること
- (ニ)(イ)又は(ロ)の定款の定めに違反した行為を行ったことがないこと
共益的活動法人の要件
次のすべての要件に該当する一般社団法人
- (イ)会員の相互の支援、交流、連絡その他の会員に共通する利益を図る活動を主たる目的としていること
- (ロ)会員が負担すべき金銭(会費)の額が定款又は定款に基づく会員約款等において定められていること又は当該金銭の額を社員総会もしくは評議員会の決議により定めることが定款において定められていること
- (ハ)特定の個人又は団体に剰余金の分配を受ける権利を与える旨及び残余財産を特定の個人又は団体(国、地方公共団体、公益社団、公益財団法人等を除く)に帰属させる旨のいずれについても定款において定められていないこと
- (ニ)理事及び親族等である理事合計数が理事の総数の3分の1以下であること
- (ホ)主たる事業として収益事業を行っていないこと
- (へ)特定の個人又は団体に特別の利益を与えないこと
個人から一般社団法人への贈与又は遺贈の課税関係
個人
・譲渡所得課税
財産の贈与又は遺贈
(寄附)
非営利型法人
・法人課税なし(寄附金収入)
・贈与税・相続税課税 ※一定の場合
営利型法人
・受贈益に法人税課税
・贈与税・相続税課税 ※一定の場合
※「一定の場合」とは、「贈与者等の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるとき」をいう
法人から一般社団法人への贈与又は遺贈の課税関係
法人
・財産の時価を一般寄附金とみなして損金算入限度額が設けられる
財産の寄附
非営利型法人
・法人課税なし(寄附金収入)
営利型法人
・受贈益に法人税課税
平成30年度税制改正
平成30年税制改正では、一般社団法人に財産を移転することによる課税逃れを防止する観点から、一般社団法人に係る相続税・贈与税の改正が行われることとなりました。
1.一般社団法人等に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税の見直し
不当減少要件
個人が財産を一般社団法人に贈与又は遺贈した場合で、贈与した者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときには、受け取った側の一般社団法人を個人とみなして贈与税又は相続税が課税されます。
「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるとき」かどうかの判定は、現行税制では、原則として、贈与等を受けた法人が相続税法施行令33条第3項などに掲げる要件(不当減少要件)を満たしているかどうかにより行うものとされています。
- ① 持分の定めのない法人の運営組織が適正であり、定款等に理事等に占める親族関係者の割合が3分の1以下とする定めがあること
- ② 贈与又は遺贈者、法人の役員等、もしくは社員又はこれらの者の親族等に施設利用、金銭貸付、資産譲渡、給与支給、役員選任その他の財産の運用及び事業の運営に関し特別の利益を与えないこと
- ③ 定款等において、法人解散の場合に残余財産が国、地方公共団体その他の公益法人等に帰属する定めがあること
- ④ その公益法人等につき公益に反する事実がないこと
相続税法施行令
第三十三条
3 贈与又は遺贈により財産を取得した法第六十五条第一項に規定する持分の定めのない法人が、次に掲げる要件を満たすときは、法第六十六条第四項の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められないものとする。
一 その運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その役員等のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(次号において「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも三分の一以下とする旨の定めがあること。
イ 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
ロ 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持しているもの
ハ イ又はロに掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの
ニ 当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者のほか、次に掲げる法人の法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員((1)において「会社役員」という。)又は使用人である者
(1) 当該親族関係を有する役員等が会社役員となつている他の法人
(2) 当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者並びにこれらの者と法人税法第二条第十号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人を判定の基礎にした場合に同号に規定する同族会社に該当する他の法人
二 当該法人に財産の贈与若しくは遺贈をした者、当該法人の設立者、社員若しくは役員等又はこれらの者の親族等に対し、施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと。
三 その寄附行為、定款又は規則において、当該法人が解散した場合にその残余財産が国若しくは地方公共団体又は公益社団法人若しくは公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人(持分の定めのないものに限る。)に帰属する旨の定めがあること。
四 当該法人につき法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装して記録又は記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと。
ただし、次のような場合には、上記の要件①を満たさないときであっても、上記②~④までの要件を満たしているときは「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるとき」には該当しないものとして取り扱うこととされています。
「当該法人の社員、役員等及び当該法人の職員のうちにその財産を贈与した者と親族その他特殊の関係がある者が含まれていない事実があり、かつ、これらの者が、当該法人の財産の運用及び事業の運営に関して私的に支配している事実がなく、将来も私的に支配する可能性がないと認められる場合」
またこの特例の適用を適用すべきかどうかの判定は、贈与等の時を基準としてその後に生じた事実関係をも勘案して行うとされ、必ずしも贈与等の時だけの判断ではないことが明らかにされています。
【改正内容】
個人から一般社団法人に対して財産の贈与等があった場合の贈与税等の課税について、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとされる現行の要件のうちいずれかを満たさない場合に贈与税等を課税することとし、規定を明確化することとされました。
この改正は、平成30年4月1日以後に贈与又は遺贈により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用されます。
2.特定の一般社団法人等に対する相続税の課税
現行税制では、一般社団法人の役員が死亡しても、一般社団法人を個人とみなして相続税が課税されることはありません。
しかし、平成30年度税制改正において、同族経営の一般社団法人の役員が死亡した場合には、当該一般社団法人に相続税が課税されることとなりました。
【改正内容】
① 特定一般社団法人等の役員(理事に限る。以下同じ。)である者(相続開始前5年以内のいずれかの時において特定一般社団法人等の役員であった者を含む。)が死亡した場合には、当該特定一般社団法人等が、当該特定一般社団法人等の純資産額をその死亡の時における同族役員(被相続人を含む。)の数で除して計算した金額に相当する金額を当該被相続人から遺贈により取得したものとみなして、当該特定一般社団法人等に相続税を課税することとする。
② ①により特定一般社団法人等に相続税が課税される場合には、その相続税の額から、贈与等により取得した財産について既に当該特定一般社団法人等に課税された贈与税等の額を控除する。
③ その他所要の措置を講ずる。
(注1)上記の「特定一般社団法人等」とは、次に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいう。
- ① 相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること。
- ② 相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
(注2)上記の「同族役員」とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族その他当該被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)をいう。
(注3)上記の改正は、平成30 年4月1日以後の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用する。ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、平成33年4月1日以後の当該一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用し、平成30年3月31日以前の期間は上記(注1)②の2分の1を超える期間に該当しないものとする。
【平成 30 年度税制改正大綱(抜粋)】
二 資産課税
2 一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し
(1)一般社団法人等に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税の見直し
個人から一般社団法人又は一般財団法人(公益社団法人等、非営利型法人その他一定の法人を除く。以下「一般社団法人等」という。)に対して財産の贈与等があった場合の贈与税等の課税については、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとされる現行の要件(役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定款の定めがあること等)のうちいずれかを満たさない場合に贈与税等が課税されることとし、規定を明確化する。
(注)上記の改正は、平成30 年4月1日以後に贈与又は遺贈により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用する。
(2)特定の一般社団法人等に対する相続税の課税
- ① 特定一般社団法人等の役員(理事に限る。以下同じ。)である者(相続開始前5年以内のいずれかの時において特定一般社団法人等の役員であった者を含む。)が死亡した場合には、当該特定一般社団法人等が、当該特定一般社団法人等の純資産額をその死亡の時における同族役員(被相続人を含む。)の数で除して計算した金額に相当する金額を当該被相続人から遺贈により取得したものとみなして、当該特定一般社団法人等に相続税を課税することとする。
- ② ①により特定一般社団法人等に相続税が課税される場合には、その相続税の額から、贈与等により取得した財産について既に当該特定一般社団法人等に課税された贈与税等の額を控除する。
- ③ その他所要の措置を講ずる。
(注1)上記の「特定一般社団法人等」とは、次に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいう。
- ① 相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること。
- ② 相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
(注2)上記の「同族役員」とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族その他当該被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)をいう。
(注3)上記の改正は、平成30 年4月1日以後の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用する。ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、平成33 年4月1日以後の当該一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用し、平成30 年3月31 日以前の期間は上記(注1)②の2分の1を超える期間に該当しないものとする。
(参考)自民党ホームページ : 平成30年度税制改正大綱